ErgoArrowsPro試作機を使ってみた

自作キーボード関係で日頃お世話になっているサリチル酸さん(@Salicylic_acid3)から、開発段階の新型キーボード ErgoArrowsPro をお借りすることができました。販売前の貴重な試作機です。

この喜びを分かち合いつつ、少しでも気になっている皆様の参考になれば、ということで、数日間がっつり試用した感想を書いてみたいと思います。

ErgoArrowsPro試作機

以前から開発が予告されていた新型キーボード ErgoArrowsPro。
サリチル酸さんが設計して遊舎工房さんで販売されている自作キーボード ErgoArrows の上位機種ですが、高級感あふれる金属ケース採用ということで、すでに国内外の多くの方々の注目を集めている模様。

実は私は ErgoArrows の大ファンで、昨年の夏に試用させてもらって以来、不動のメインキーボードとして毎日ヘビーに使い倒しています。ErgoArrows でタイプした文字の数だけならば、おそらく日本で…いや世界でもトップクラスのはず。
というわけで今回の ErgoArrowsPro に関しても、ものすごく楽しみにしてました。

で、実際に使ってみた感想なのですが、結論から言うと、

素晴らしすぎてアドレナリンがどっぱどっぱですわ~!!

そんな感じで、主に無印ErgoArrowsとの比較という観点から感想を書いてみたいと思います。

外観

ErgoArrows はキー数76(主要部×68+アローキークラスタ×8)の左右分離型カラムスタッガード配列のキーボード。Proもまったく同じレイアウトです。

ErgoArrows 自体は以前に別の記事で紹介したことがあるのですが、とにかく衝撃的に使いやすいキーボードなので、長文を書く機会が多い人には特に全力でおすすめしたいです。

  • 左右分離型で肩・手首への負担が少ないだけでなく、キー配列の関係で指も楽。入力効率が非常に高い。
  • キー数に余裕があり、 セパレート型キーボードでしばしば問題になる「B」キーや「6」キーなどを左右どちらに置くか問題を完全に解消している。また独立した数字行があるので記号入力などにも困ることがなく実用的。
  • このタイプの自作キーボードではレアな矢印キークラスタが左右に搭載されており、長文執筆時やショートカット入力時などにたいへん便利。もちろんネットや動画をダラダラ見るときも便利。

これら ErgoArrows の優れた特徴は、同じキー配列を持つ Pro にも完全に引き継がれています。

そして気になる無印と Pro の見た目の違いはこんな感じです。

ErgoArrows は横から見ると基板やスイッチが丸見えになるので良くも悪くもDIY感があるのですが、Proは金属製のケースに入っていて、しっかりとした工業製品という印象です。職場などの人目に触れる場所でも使いやすいのではないかと思います。

ケース自体の質感も高く、ミニマルで機能的な見た目が、シンプルにとてもかっこいいです。私は初見でシルバーに惚れこんでいたのですが、マットな黒も引き締まった印象で控えめに言って最高な感じ。机の上でコンパクトに見えるし、ダーク系のキーキャップで似合いそうなやつをいっぱい思いついてしまいます。

ErgoArrows用のキーキャップの話

余談ながら ErgoArrows はすべて1uのキーキャップを使用するため、キーキャップの選択肢が限られており、好きなキーキャップを自由に選ぶのが難しい状況が続いていました。特に日本語配列でキーの記号と刻印を完全に一致させるのは至難のわざでした(MT3 /dev/tty以外の選択肢がなかった)。

ところが2022年に入って、その状況がだいぶ改善されています。

具体的には、Akko製品などの安価でキー数の多いキーキャップセットが多く出回るようになったことです。これにより、ortholinearキットのないキーキャップでも1uキーの数が足りるようになりました。

さらにサリチル酸さんが自らコンベックスキーキャップセットを用意してくださったため、ErgoArrows の親指周りで使用するキーをすべてコンベックスキーでまかなえるようになりました。1uのコンベックスキーは数をそろえるのがけっこう大変なので、これは非常にありがたいです。

ちなみにコンベックスキーというのは、親指を置きっぱなしでも痛くならない丸みを帯びたキーキャップのことですわ。たぶん。

make.dmm.com

booth.pm

そして2022年中には ePBT SimpleJA R2GMK JISMDA Future Suzuri が発送される予定になっており、これらのキーキャップが届けば ErgoArrows を日本語配列で使う場合の選択肢が一気に広がります。
個人的には SimpleJA を ErgoArrowsPro の銀ケースで、Future Suzuri を黒のケースで使いたいなあ…などと考えています。

打鍵感

見た目以上に劇的に変化しているのが、ErgoArrowsPro の打鍵感です。試用してみて私が衝撃を受けた一番のポイントでした。

これに関しては、サリチル酸さんが自らタイピング動画を上げてくださっているので、実際に聞き比べてみてください。

ErogArrows の打鍵動画

ErgoArrowsPro の打鍵動画

パームレストなし

www.youtube.com

パームレストあり

www.youtube.com

PCBサンドイッチ構造の ErgoArrows はどうしてもガチャガチャと機械的な打鍵音が響いてしまうのですが、ErgoArrowsPro はコトコトとした高級キーボード風な音色になっててびっくりします。

特にスムーズさに定評のある Everglide Aqua King スイッチの打鍵音(右手側・黒いほう)は素晴らしく、タクタイル派の私ですら思わず転向しそうになったほど。

一方の Holy Panda(左手側・白いほう)はもともとのキースイッチの音が大きめなのですが、不快な反響音もなく、本来の硬質な打鍵音がより強調された印象になっていると思います。またケース素材の関係か、タクタイル感がくっきりと感じられるのも、強めのタクタイルが好きな私のような人間にとっては嬉しいポイントでした。

Proになって変わったところ

専用パームレスト

金属ケースと並ぶProの最大の特徴である、木製の専用パームレスト。高級感があって見映えがいいだけでなく、安定感が増して打鍵時の疲労を大きく軽減してくれます。

私は木製パームレストが大好きで既製品のパームレストを各種とりそろえているのですが、なにしろ ErgoArrows の手前側は特殊な形状なのでどれを使っても微妙に形が合わず、ずっと不満に感じていました。
その点、この専用パームレストは ErgoArrowsPro に完璧にフィットするだけでなく、本体にネジで固定されているため使っているうちにズレることもありません。いやもう本当に最高オブ最高。

またパームレストを取りつけることで、ErgoArrows 本体がフラットになり、打鍵時の手首の位置が指先よりも高い、いわゆる逆チルト状態になります。これによって長時間のタイピングを続けた際に指や手首の負担が少なくなることが期待されます。

一方でパームレストを取り外した場合には、一般的なキーボードと同じ順チルトとなります。このときに効果を発揮するのが、ErgoArrows 系の特徴であるロープロファイルのアローキークラスタ。手のひら近くにある矢印キー部分が一段低くなっているおかげで、パームレストなしでもタイピングがしやすくなっています。これは本当にすごい発明なのでもっと評価されて欲しいです(そしてこのシステムを採用したキーボードが増えて欲しい)。

ソケット対応

ErgoArrows はキースイッチの端子をハンダ付けするため、組み立て後のキースイッチの交換が難しかったのですが、Proはソケット化されており、キースイッチを簡単に交換できるようになっています。いわゆるホットスワップ仕様というやつです。

これは個人的にとても嬉しい変更点。キースイッチの好みは使っているうちに変わるので、そんなときに気軽にスイッチだけを交換できるというのは安心感があります。特に ErgoArrowsPro の場合、どうしても本体価格が高価になることが予想されるので、長く使うためには必須の機能といっていいのではないかと。

TRRSジャック取り付け位置の変更

キーボードの左右を接続するTRRSジャックの位置が、Proの場合はやや奥側に変更になっています。これはおそらく本体にパームレストを取りつけるためだと思うのですが、副次的な効果としてケーブルの取り回しがかなりすっきりしました。
分離型キーボードの場合、左右のキーボードの間の空いたスペースにモノを置くことが多いので、ケーブルが干渉しにくくなったのは地味に嬉しい変更点です。

LED・ロープロスイッチは非対応

逆にProになったことによりオミットされた機能もあります。

ひとつはフルカラーLEDの省略。ノーマルの ErgoArrows ではフルキーバックライトが搭載されていましたが、Proではこの機能がなくなっています。まあ、職場でキーボードのLEDをピカピカさせるようなことは普通はないので、Proとしては妥当な変更かと。

ノーマルの ErgoArrows の場合、フルキーバックライトに加えてアンダーグロー用のLEDテープも搭載できますし、スイッチプレートやボトムプレートを透明アクリル製にすることで、さらにド派手に光らせることができます。華やかなキーボードがお好きな光の民の方々は、ぜひこちらをチョイスしていただければ。

もうひとつの変更点は、OutemuLPスイッチが使用できなくなったことです。
ErgoArrowsではOutemuLPスイッチを使用することで、通常のCherryMX互換スイッチを使った場合よりもキーボードの全高を低く仕上げることが可能でした。ですが、ProではOutemuLPスイッチは選択できなくなっています。スイッチの購入時には注意が必要です。

ErgoArrowsProとLPスイッチ版の高さ比較。わずかな差ですが、打鍵感はかなり変わります。

まとめ

ErgoArrows は私が個人的に最強だと思っているキーボードなのですが、見た目の高級感や音質面に限れば、一台数百ドルとかする海外製の高級キーボードに見劣りするのも事実でした。その点、重厚なアルミ削り出しケースと木製パームレストを手に入れた ErgoArrowsPro は、機能性と実用性に加えて所有欲も満たしてくれる、名実ともに最高のキーボードに近づいたのではないかと感じています。

さらに個人的な感想を言うと、私が自前の ErgoArrows に施した細々としたカスタマイズ(ソケット化や重量アップ・逆チルト化など)が、Pro には最初からすべて盛りこまれています。そんなの絶対に最高なヤツじゃん……!
実際に今回の試用でも、私が慣れ親しんでいる改造 ErgoArrows からまったく不満なく Pro に乗り換えることができました。あんなに手間暇かけてカスタマイズしたのに…と軽く敗北感に打ちひしがれております。

そして今回の試作機で得られたデータをもとに、ErgoArrowsProには更なる改良が加えられるとのこと。完成が本当に楽しみです。

もちろんノーマルの ErgoArrows も本当にいいキーボードなので、待ちきれない方はぜひそちらを入手していただけたらと思います。

最後になりましたが、貴重な試作機を貸与してくださったサリチル酸さんに感謝いたします! 本当にありがとうございました!

ErgoArrows