ご存じのとおり自作キーボード業界ではUS配列が圧倒的にメジャーで、日本語配列のキーボードは選択肢が非常に少なくなります。海外製のキットがほとんど使えないので、こればかりはまあしゃあない。
そんな中、貴重な日本語配列のキーボードであるJP60SSの存在を知ったので、さっそく購入してみました。
PCB(プリント基板)
日本語配列へのこだわりが感じられる自己主張の強い基盤。背面にはすでに必要な部品が実装されています。
スイッチソケットを採用しているため、組み立て時にはんだ付けをする必要はありません。この状態でまずはファームウェアの書き込みテストを行います。
QMK toolboxと定義ファイルが用意できていれば、ファームウェアの書き込みはそれほど難しくありませんでした。ピンセットで基盤を短絡させるというとおっかない印象がありますが、実際には、なんだかよくわからないうちに終わってしまいます。
キースイッチとスタビライザーの取り付け。
スタビライザーはキットに同梱されていたものを使用。結果的に組み上がったものの、組み立て方は上手く説明できない。解説ブログや動画を見てもよくわからない。
キースイッチは Input Club Hako Violet を選択。
sphh jp のときに使った Outemu Silent Forest は静かでとてもいいんだけど、押下圧が62gとちょい重いので、今回は同じタクタイルで軽めのものを使いたかったのです。Hako Violetの押下圧は39gということで、数値上はHHKBより軽くなっています。さらにキースイッチを分解してルブ(潤滑剤塗布)しているので、動きがスムーズになって音も気持ち静かになった(はず)。
完成
ケースはKBDFansで購入したDZ60/GH60用のウッドケースを使用。絶滅危惧種であるローズウッド材の製品は一時期輸入できなくなっていたのですが、2019年のワシントン条約改正で再び入手できるようになりました。実はこのローズウッド材のケースを使いたかったというのが、今回キーボードを自作した理由のひとつだったりします。ローズウッドの美しい杢が好きなのよ。
キーキャップにはケースの色に合わせて AliExpress で購入した Cool Jazz PBT を使用。HHKBに近いとされるOEMプロファイルのキーキャップです。オプションでISOエンターキーが選べる上に無刻印なので、日本語配列でも違和感なく使えます。
右シフトキーのサイズを本来のものよりも小さくして、隣のキーとの間隔を空けているのがこだわりポイント。シフトキーの左隣のキーにカーソルキーの上(↑)を割り当てているので、誤タイプを減らすためにわざと隙間を空けているのです。
雑感
JP60SSのいいところ
キーボード最下段のキー数が多い。
ひとつの目安として日本語入力の効率は、キーボード最下段(手前側)のキー数の多さで決まります。たとえばUS配列のHHKBにおいて最下段のキー数はわずか5つ。逆に同じHHKBでも日本語配列の場合は13個ものキーが用意されています。日本語入力を効率的に行うには、それだけの物理的なキー数が必要なのです。これはレイヤー機能による同一キーの多機能化では完全には代替することができません(理由は後述)。
分割スペースキーを採用しているJP60SSは、最下段にHHKB(JP)と同じ13個のキーを持っており、これだけでも日本語入力において最上位クラスの高効率キーボードであることがわかります。
コンパクトな60%サイズ
キーボードを使う際、もっとも疲労が溜まる動作は、手を大きく動かすことだといわれています。JP60SSの設置面積は、MacBookなどのノートPCのキーボード部分とほぼ同じ。ホームポジションから最小限の移動ですべてのキーにアクセスできるほか、マウスやトラックボールなどのポインティングデバイスまでの距離も近くなり、疲労の軽減や文字入力の効率化に貢献します。
キーの割り当てを自由に変更可能
Remapに対応しており、すべてのキーの割り当てを好きなように変更可能です。もちろん自作キーボードの醍醐味でもあるレイヤー機能や、同じキーを長押しした場合と単押しした場合で別個の入力にする Tap and hold 機能の恩恵も受けられます。実際のキー数以上に多様なキー入力や操作が可能となるため、文字入力の更なる効率化が期待できます。
組み立てが簡単
スイッチソケットを採用しているため、組み立て時にはんだ付けをする必要がありません。簡単なネジ止め以外は工具も不要で、プラモデル感覚で組み立てが可能です。
設計者である天高工房さんのサイトに詳細なビルドガイドが掲載されているほか、解説動画もアップされているので、自作キーボード初心者にも最適だと思います。
パーツ選びの自由度が高い
多くの互換製品が出回っている Poker/GH60 ケースに対応しており、多様な見た目を選ぶことができます。スイッチソケットの恩恵でキースイッチの交換も容易です。
また日本語配列キーボードはキーキャップの選択肢があまり多くないのですが、JP60SSの場合は親指周り以外のキー配列にクセがないため、比較的キーキャップ選びの自由度が高いです。特にスペースキーの幅を気にせずに済むのがありがたい。
コネクタがUSB type-C
もげにくくて安心できる。
おまけ
なぜキーボード最下段のキー数にこだわるのか
私の場合、日本語入力がメインの仕事なので、日々大量のかな漢字変換をしなければなりません。なので、かな漢字変換の効率の高さがキーボード選びの基準になります。
特に重要視しているのが、スペースキーの両脇にある「かなキー」「英数キー」(または変換・無変換・かなキー)と、独立したカーソルキーの存在です。
「かなキー」と「英数キー」があればノールックで日本語入力のON/OFFが切り替えられるだけでなく、英数字モードのまま打った文字列を「かなキー」2度押しで日本語の文章に変換する、逆にかな入力した文字列を「英数キー」2度押しで半角英数に変えるという粋な小技が使えます*1。慣れると地味に便利です。
またカーソルキーは、漢字変換時に Shift+「↓」で一音確定、Shift+「←(→)」で注目文節を前後に移動、 Shift+Ctrl+「←(→)」でローマ字単位の区切りを前後に移動するなど、細かな文節制御を行うショートカットで多用します。
キー数の少ない自作キーボードでは、これらのキーは削られて別レイヤーに割り当てられることが多いのですが、ただでさえ複雑なショートカット操作時に、同時に押すキーの数を更に増やすのは脳内リソースの消耗が激しくあまり効率的とはいえません。
そんなわけで日本語入力時におけるキーボードの生産性は、独立した英数・かな・カーソルキーを割り当てられるかどうか、つまりキーボード手前側の行のキー数の多さが目安になると私は勝手に考えています。
日本語配列のHHKBの最下段のキー数は13個ですが、これはREALFORCEやMajestouchなどのテンキーレスのキーボードと同じです。
アプリケーションキーのような使用頻度の低いキーはなくても問題なさそうですが、自作のコンパクトキーボードの場合、レイヤーの切り替えに使用するFnキーが必要になります。なので、やはり日本語入力メインのキーボード最下段には12±1個くらいのキーが必要だと思うのです。
とはいえ、本当に効率を求めるなら、そもそもQWERTY配列が日本語入力には向いてないって話なんですけどね…
まとめ
JP60SSは良いぞ。
あと日本語配列の自作キーボード、もっと増えてー。
*1:ATOKの場合