キーボードの自作に手を出すようになって一年ちょっとが経ちましたが、今回ついに基板から自分で設計したワンオフのキーボードを作ってしまいました。
ひとまず暫定的に、"Malic Acid A70R"と呼んでいます。
GL516互換キーボード、Apple Extended Keyboardのキーキャップと ALPSスイッチ専用設計、prk_firmwareで駆動、などが主な特徴です。
なお、Malic Acidとはリンゴ酸のことです。Apple Extended Keyboardの製造元企業と、GL516の設計者様を勝手にリスペクトした名前になっています。
A70R を作った理由
1987年から1994年にかけて生産されたApple Extended Keyboard(以下、AEK)は、優れたデザインと高級キースイッチであるALPS軸の打鍵感によって、今でも人気の高いキーボードです。
ですが、接続端子がADBという廃れた規格のため、現在市販されているPCはもちろん、Macでも使用することができません。
そのためAEKのキーキャップとキースイッチを新たな基板やケースに移植して、USB接続のキーボードとしてリメイクした作例をReddit等でしばしば目にします。
A70Rもそれらの作例と同様に、AEKをアルミ筐体でUSB Type-C接続の65%キーボードに再構成したものです。
同種の製品としては ai03 Design Studio さんの LUNAR という大変美しいキーボードがすでに存在するのですが、高価な上に生産数が少なく、今から新たに手に入れるのは非常に困難です。
で、手に入らないなら作ればいいじゃない、ということで自分用に設計してみたのが、今回の Malic Acid でした。
余談ながら私が仕事で初めて触ったパソコンがMacintosh IIsiだったので、まさにその当時使っていたのが後期モデルのAEK II(M3501)だったような気がします(うろ覚え)。それもあってどうしてもAEKを使ったキーボードを作ってみたかったのです。
A70R の特徴
GL516互換キーボード
GL516は自キ温泉ガイドのサリチル酸さんが設計された汎用アルミ切削ケースです。このケースを利用することで、アルミ筐体のキーボードを安価に自作することができます。
salicylic-acid3.hatenablog.com
またGL516には互換キーボードを作成するためのテンプレートが用意されており、無償で公開されているデザインガイドに従うことで簡単にオリジナルのキーボードが設計できるようになっています。今回の Malic Acid 設計においても、こちらのテンプレートとデザインガイドには大変お世話になりました。
GL516テンプレートはMX互換スイッチの使用を前提に作られているのでALPS軸用のフットプリントを自前で用意する必要がありますが*1、それ以外はほぼデザインガイドの手順に従って設計しています。
そのため、無線対応などのGL516の機能もそのまま引き継いでいるはずです(まだ試していませんが)。
AEKキーキャップ専用設計
ALPSスイッチ用のキーキャップは選択肢が少なく入手の難易度も高いので、最初からAEKのキーキャップ専用としてレイアウトを考えることにしました。
使用されているキースイッチの種類にこだわらなければ*2、AEK自体は流通量も多く、価格もこなれているので、まあ問題ないかと思います。
分割スペースバーや、英数・かなキー・グローバル(Fn)キーに相当する1Uのキーなどを装備しているのは完全に私の趣味です。そのため、JISキーボードに慣れた人間にも使いやすい配列になっています。
ただしその結果、必要なキーキャップがAEK一台では足りず、別途Apple Standard Keyboard (M0116)のキーキャップを流用しなければならなくなりました。
自分専用で使うぶんにはいいのですが、さすがにこのままでは頒布できないので、頒布用のレイアウトについては別途考えたいと思います(頒布の需要があるかどうかはさておき…)。
prk_firmware使用
A70Rについては、私専用の試作機ということで、QMKの環境構築やビルドの必要がないprk_firmwareで動かしています(A70Rの"R"は、RP2040のRです)。
今のところ問題なく動いていますが、Remapが使いたいので、のちのちQMKファームウェアも作成するつもり。
GL516互換キーボードのprk_firmware対応については、こちらの記事をご覧ください。
A70Rの使用感
キー配列についてはごく普通の65%キーボードなので、特筆すべき点はありません。分割スペースバーも慣れると便利だと思います。
ただ、ホームポジションに手を置いたときの右手親指の位置がちょうどスペースバーの分割部にきてしまうので、ここは改良の余地がありそうです。見た目的には気に入っている部分だけにちょっと悩ましい。
キーキャップのデザインはさすがに良いですね。とても35年前の製品とは思えません。
肝心の打鍵感ですが、軸のブレがほとんどない一方、経年劣化のせいかスレ音が目立つので、分解清掃とルブは必須だと思います(今回の試作機に使ったのはDamped Cream軸です)。ただ底打ちの柔らかさや、みちっと身が詰まったような打鍵感はMX系のスイッチでは感じたことがないもので、これを好きな人がいるというのはよくわかります。
手を入れたらもっと良くなるのかと思うと、ALPS軸の深い沼にハマりそう。実はほかにも何種類かスイッチを入手しているので、いろいろ試してみたいと思います。
またALPSスイッチで使用するスイッチプレートは1.2mm厚で、MX系(1.6mm)よりも少し薄いです。そのため打鍵感が心なしか柔らかい印象を受けました。 ハーフガスケットマウントのGL516ケースと、この薄いスイッチプレートは非常に相性がいいと思います。A70Rのスイッチプレートはアルミ製ですが、よくしなって見た目にもとても柔らかい印象。
まとめ
以上、簡単ですが Malic Acid A70R の紹介でした。
A70Rはキーキャップの入手に難があり、1台組むために貴重なビンテージのキーボードを2台も潰さないといけないという致命的な欠点を抱えています。そこで現在レイアウトを見直したA65という基板を試作中です。GL516互換キーボードであるA65は比較的安価にキット化できるので、試作基板に大きな問題がなければ余りを少量頒布することを検討しています。
ALPS軸の自作キーボードの入門用ということで、もし気になる方がいたら、あまり期待せず気長にお待ちいただければ……!