N51GLを組み立ててみた

サリチル酸さん(@Salicylic_acid3)が設計した自作キーボードキット『N51GL』を購入したので、組み立ててみた記録とレビューです。長いです(9,500文字)。

はじめに

N51GLとは

N51GLは、話題の自作キーボード用アルミ切削ケース『GL516』用に開発された互換キーボードのひとつ。

GL516互換キーボードとして日本語65%配列のJ73GL、AliceレイアウトのA52GLと同時に発表されましたが、本機N51GLは、独特なキー配列と大径ロータリーエンコーダー搭載、美しい花柄のスイッチプレートなどの特徴を持っています。

なぜN51GLを選んだのか

1. 見た目がカッコよかったから

毎日使う道具なので、キーボードの見た目は重要ですね。

2. N51GLのキー配列に興味があったから

N51GLは、簡易版『Naked64SF』を目指して設計されたキーボード、とのこと。

Naked64SFといえば、数々の人気キーボードを世に送り出してきたサリチル酸さんをして、もっとも使いやすいと言わしめたキーボードです。

私が現在愛用している『ErgoArrows』もサリチル酸さん設計のキーボードなわけですが、「ErgoArrowsですら衝撃的に使いやすかったのにこれより上があるの!?」という驚きがあって、以前からNaked64SF系列のキーボードには興味がありました。

そんな中でNaked64SFに近い配列のキーボードがGL516互換キーボードとして販売されると聞いたら、それはもう買うしかないですわ…!

3. トップマウントのキーボードに興味があったから

私がこれまで使ったことがあるのはサンドイッチマウントやトレイマウントなどのPCBを下から支える系のキーボードだけなので、スイッチプレートをケースの上部に固定して吊り下げるタイプのキーボードを一度使ってみたかったというのもあります。高級キーボードはだいたいみんなそっちの方式らしい。気になります!

N51GLレビュー

GL516ケースについて

GL516ケースは、5行×16列サイズの汎用(General Layout)キーボードケースです。

これまで多くのキーボードで使われていたPoker互換ケースと比較してレイアウトの自由度や拡張性が高く、静音化や着せ替えなどの各種カスタマイズが容易に行えるように設計されています。

また、ケースの設計データや互換PCBを設計するためのテンプレートが公開されており、初心者でも(比較的)簡単に自作キーボードを設計できるのも嬉しいところ。『Ambi-GL』のような互換PCBが今後増えていくのが期待されています。

salicylic-acid3.hatenablog.com

GL516ケースの見た目はこんな感じ。

リーズナブルなお値段ですが質感は上々で、工業製品らしいソリッドな魅力が感じられます。また、ずっしりとした重量は(557g)打鍵時の振動を抑え、打鍵音の向上にも寄与するはず。カスタムキーボードの世界ではこれでも軽いほうだというのだから恐ろしい…

GL516本体には黒いプレートが標準で付属していますが、今回はN51GLのスイッチプレートに合わせた花柄のカスタムプレートを同梱していただきました。

バックプレートやボトムプレートを変更すると、見た目の印象ががらりと変わります。プレートの寸法などのデータは公開されているので、アクリルや木材などを使ってオリジナルのプレートを用意することも可能。このように見た目を自由にカスタマイズできるのも、GL516の魅力だと思います。二次元キャラをあしらった痛キーボードなんかも手軽に作れるのよ。

N51GLの特徴

キー配列

N51GL最大の特徴といえるのが、この特殊なキー配列。格子状のオーソリニアでありながら、Alice配列のように途中でキー配列の角度が変わって折れ曲がっているように見えます。

省スペースな一体型キーボードですが、キーが左右に分かれて角度がついているため、手首や肩の角度が自然で楽にタイプできるのはAlice配列と同じ。

一方でアルファベット部は指の移動距離が短いオーソリニア配列の特徴が色濃く出ていて、キー配列の密度が非常に高い印象を受けます。特にAlice配列の鬼門である「B」キーがとても近くて打ちやすい(逆に「N」キーはわずかに遠くて慣れるまでちょっと違和感あり)。

また、純粋なオーソリニア配列のキーボードに比べて、シフトキーなどの修飾キーやカーソルキー周りが一般的なロウスタッガードのキーボードに近いため、ほかのキーボードから違和感なく乗り換えることができます。
見た目の印象からN51GLのキー配列は、Alice配列のバリエーションという先入観を持っていたのですが、むしろ移行コストが低くてエルゴノミック性に優れたオーソリニアの発展系なのでは、と思いました。

私が個人的にもっとも使いやすいと感じているキーボードはカラムスタッガードのErgoArrowsなのですが、たしかにN51Gのキー配列は、使い勝手においてErgoArrowsを凌駕している部分があることを認めざるを得ないかも。キーボードの世界は奥が深い。

打鍵感

アルミ削り出しの金属ケースとトップマウント方式の組み合わせは初めてだったので、楽しみにしていた打鍵感。

結論からいうと筐体はがっしりしていて剛性感があるのに、打鍵感は柔らかくて指に優しいという矛盾したような不思議な感覚でした。なんだこれ、知らない感覚だ。

カスタムキーボードに詳しい人たちがスイッチプレートの柔らかさにこだわる理由がわかったような気がします。なるほど…そういうことか…読めたぜ、完全に。

私はこれまでタクタイル系のスイッチを愛用していたのですが、こういう感触のキーボードであればリニア系のスイッチも合うかもなあと思いました。キーボードの世界は奥が深い。

ロータリーエンコーダー

N51GLの見た目のアクセントとして目立っている大きめのロータリーエンコーダー。左右のどちらの手でも無理なくアクセスできるので、使い勝手も良好です。

ひとまず私は音量の調節とミュート、拡大縮小とリセット、横スクロールの三つ機能を割り当てていますが、工夫次第でほかにもいろいろ出来そう。

ロータリーエンコーダーはなくてもべつに困らんだろ、と思っていたのですが、慣れると便利で手放せなくなりますね。

スイッチプレートの装飾

N51GLのスイッチプレートには花柄があしらわれていて、LEDを点灯すると光が透過して浮かび上がるようになっています。

これはもう単純にめっちゃ綺麗。

私は、組み立て中にうっかり基板のパッドを剥がしてしまって一カ所LEDが点灯しなくなってしまったのが悔やまれます。

カスタマイズ

実は今回は最小限のパーツで普通に組み立てただけで、特にカスタマイズは施していません。

ケースの底にスポンジシートを貼り付けたり、スイッチプレートの裏側に静音フォームを挟んだり、重りを足したり、デコレーションプレートを取り付けたり、できることがたくさんありすぎて、なにから手をつけていいやらわからん。

GL516は公式のカスタマイズガイドも公開されているので、そちらを参考にのんびり進めていこうと思います。

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組み立て編

ここからは私がN51GLを組み立てた際のビルドログです。

部品のほとんどが工場で実装されているA52GLやJ73GLと違い、N51GLはソケットやダイオードなどを手作業で取り付けなければなりません。とはいえ、極端に難易度の高い工程はありませんので、ひとつひとつ順番にやっていきます。

初心者がよくわからないまま雰囲気で作ってますが、こんなんでもちゃんと動くということでなんかの参考になれば…!

なお実際の組み立てにあたってはこのブログの記述は決して信用せず、公式のビルドガイドを参照してください。 信用するなよ!絶対するなよ!

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購入したもの

  1. GL516ケース(遊舎工房
  2. N51GLキット(BOOTH
    1. スイッチプレート × 1枚
    2. 基板 × 1枚
    3. ピンソケット(13ピン) × 2個
    4. ロータリーエンコーダ × 1個
    5. ロータリーエンコーダ用ノブ × 1個
  3. ProMicro × 1個
    1. ピンヘッダ × 2個
  4. ダイオード × 52個
  5. スイッチソケット ×51個
  6. LED(SK6812MINI-E)×15個
  7. リセットスイッチ × 1個
  8. パネルマウントケーブル × 1本(なくてもいい)
  9. キースイッチ × 51個
  10. キーキャップ × 51個

購入時期や購入先にもよるのですが、私が買ったときは1〜8まででだいたい2万円くらいでした。現在は円安やら半導体の品薄やらで少し値上がりしているかも。

キースイッチとキーキャップは値段もピンキリなので、ご予算に応じてお好きなものをどうぞ。N51GLは特殊な形状のキーキャップをあまり必要としないので、特にこだわりがなければかなりお安く揃えることができます。

LEDのはんだ付け(オプション)

まずはLEDのはんだ付けをやります。こちらの工程は省略してもキーボードとしては動作しますが、LEDの数も15個と少ないですし、美しい花柄のイルミネーションはN51GLの魅力のひとつでもあるので、頑張って挑戦します。

N51GLで使用するLEDは足付きのSK6812MINI-Eです。

  1. 取付時の向き
  2. はんだごての温度

に気をつけて取り付けていきます。

一つだけ斜めに切り欠きがある足をGNDに合わせて、発光部分が裏面に来るように穴に嵌めこみます。

足を一本ずつはんだ付け。このときLEDが熱くなりすぎないように、4本まとめてはんだ付けするよりも少し時間を空けてやる(ほかのLEDと順番にはんだ付けをしていく)と安心らしいです。

LEDの取付には苦手意識があったのですが、融点が低くてちょっと細めのハンダを手に入れたので、なんとかなりました。

ダイオードのはんだ付け

N51GLは表面実装タイプとリードタイプの両方のダイオードに対応しています。

リード型のほうがはんだ付けは楽ですが、足を切ったりするのがちょっと面倒(ゴミが出る)。表面実装タイプははんだ付けの難易度はちょい高めですが(ピンセット必須)、慣れれば短い時間でいける気がします。

どちらでも好きなほうでいいと思うのですが、今回は表面実装タイプを使いました。実は注文時に数量を一ケタ間違ってしまって、家に在庫が大量にあるのよ…

ビルドガイドを参考に、取り付け位置の片方に予備はんだ → 予備ハンダを利用してダイオードの足を片方はんだ付け → ダイオードが浮いてないかチェック → もう片方の足をはんだ付け という順番でやりました。

ダイオードには向きがあるのですが、特に表面実装タイプの場合、向きを表すマークが小さくてとにかく見づらいので、ルーペがあると便利かもです。

ダイオードの足を片方つけ忘れるミスは、(私の場合)よくやらかすのでチェックは念入りに…!

スイッチソケットのはんだ付け

こちらも予備はんだを利用して取り付けていきます。

スイッチソケットにも向きがあるので、上下を間違えないように注意。白いシルエットみたいなマークが見えなくなるように取り付けてください。私は一度やらかして酷い目にあったことがある…!

ProMicroのはんだ付け

GL516互換キーボード最大の難所は、このProMicro周辺のはんだ付けだと思います。ピンヘッダの向き(上下)と、ピンソケットに差しこむ位置、ProMicroの向き(上下と前後)など間違いやすい箇所がてんこもりです。
特にProMicroのUSB端子が基板の内側を向いているのは、ほかの自作キーボードキットではあまり見たことがないので、うっかり間違いやすい気がします。私も危ないところでした…!

幸い公式のビルドガイドには大量の写真入りで詳しく手順が説明されているので、ひとつひとつ確認しながらやればどうにかなります(なりました)。

GL516 互換PCB共通ビルドガイドだけでなく、『A52GL』『J73GL』ビルドガイドも参考になると思います。

ProMicroにはパネルマウントケーブル(延長コードみたいなやつ)を挿しておきます。直接USBケーブルを突き刺しても、おそらくいけると思いますが、こいつがあったほうがたぶん安心。

ProMicroのUSB端子はもげやすいことで有名なためエポキシ系の接着剤などで補強する作業が推奨されているのですが、GL516互換PCBの場合は、一度組み立ててしまうと(おそらく)抜き差しすることがないので、その手順は不要な気がします。私はそれでも不安なので、いちおうやっておきましたが…!

リセットスイッチの取り付け

基板の裏側の「RESET」と書かれている部分にタクトスイッチを取り付けます。こいつのはんだ付けは簡単なので好きです。

ロータリーエンコーダーの取り付け

公式ビルドガイドとは手順が前後するのですが、ロータリーエンコーダーを先にはんだ付けしてしまうとProMicro等を取り付けるときに邪魔なので、ロータリーエンコーダーは最後に取りつけるのがいいと思います。こいつのはんだ付けも簡単なので好きです。

キースイッチの取り付け

お好きなキースイッチをスイッチプレートにはめた上で、PCBに挿していきます。

N51GLの場合、一部スイッチの向きが上下逆の部分(親指側の左右それぞれ3キー)があるので注意。向きを間違ったまま取り付けようとすると、おそらくキースイッチの端子がへし折れます。

ファームウェアの書きこみ

RemapのキーボードカタログからN51GLのページに移動し、Chromeブラウザから直接ファームウェアを書きこみます。

なおProMicroで採用されているのは、Caterinaというブートローダらしいです。

書きこみに成功すると、こんな感じの画面が出てくるはず↓↓↓

なんらかの事情でChromeが使えない場合も、同じページからファームウェアをダウンロードすることが可能です。

詳しくは公式のビルドガイドを参照してください。

動作テスト

RemapのTest Matrix modeを使って、キースイッチ(とロータリーエンコーダー)が反応するかチェックします。

すべてのキーの色が変わればOK。

また、点灯しないLEDがある場合、ここで修正しておきます。

なお、L1のLEDはレイヤーインジケータとして使用されているので、使用したファームウェアによっては、正常に動作していても光らない可能性があります。

失敗した人

なぜかL8のLEDだけが点灯しなかったため、はんだ付けをやり直したりLEDを交換したりしてたら、うっかり基板のパッド(銅箔)を剝がしてしまいました。そこで仕方なく、手配線で応急修理することに。

N51GLは設計データがすべて公開されているので、こういうときは助かります。

ケースへの取り付け

キーボードが正常に動作することが確認できたら、ケースに取りつけます。

まずはスイッチプレートを、ケース付属のネジで装着。

なお今回はオプションの打鍵感向上用シリコンパッドを別途購入して、スイッチプレートとケースの間に挟んでいます(ハーフガスケットマウントというらしい)。

続けてバックプレートを装着。

バックプレートは用途に合わせた複数のパネルを組み合わせて使用するのですが、今回はパネルマウントケーブル(Micro-B)用と、ブランクプレートを選択しています。

あとはボトムプレートを装着し、最後にキーキャップを取り付けて完成です。

完成!

キーマップを煮詰める

N51GLは51キーしかないため、そのままでは打てない文字があったりして使い勝手があまりよくありません。

そこでRemapを使用して自分好みにキーマップを書き換えてやります。ロータリーエンコーダーに割り当てる機能もRemapから変更可能です。

Remapの使い方については、サリチル酸さんの解説ページが大変わかりやすいのでおすすめです。

salicylic-acid3.hatenablog.com

おまけ

私が実際に使っているN51GL用のキーマップを置いておきます。

左右のスペースキーを長押しすることで、それぞれ異なるレイヤーに切り替わります。

あとは数字入力がやりやすいようにテンキーっぽく使えるレイヤーを用意したり、数字列の記号(「!」とか「#」とか)を打ちやすいようにレイヤーキーのお隣にシフトキーを置いたりしてるのが工夫した点。

また私はMacユーザーなので、Karabiner-Elementsを併用することを前提にしたキーマップを設定してあります(ApplicationキーをFnキーに置き換えるようにしてある)。

参考になれば幸いです。

まとめ

N51GLは、同時期に発表されたJ73GLやA52GLに比べて組み立てが少し手間ですが、とても特徴的で面白いキーボードだと思います。

またGL516ケースは一台あればほかの互換キーボードに簡単に換装することができるので、長く使えるお買い得な製品といえるのではないかと。

さらにGL516デザインガイドは、キーボード設計の入門用として非常に親切に出来ているので、自作キーボードの開発に興味がある方にもおすすめできます。

そんなわけでGL516互換キーボードN51GLの紹介でした。

最後までお読みいただきありがとうございました。